ある秋のことです。
その日は麻雀大会もなく、静かな夜を迎えていました。私は少し肌寒くなってきていたので、窓とカーテンの両方を閉めていました。
そして、夜の9時頃、窓の外が少し明るくなったものですから、私は目の前の学生用アパートの住人が帰って来たのかと思って気に留めることなく、音楽を聞いていました。
すると、下の方から「火事だあ!」という大きな声がするではないですか。
私は、びっくりしてカーテンと窓を開けてみると、なんと、目の前の窓が割れていて、炎が私の目の前まで迫ってきているではないですか。
一瞬固まってしまいましたが、すぐに我に返って窓を閉めます。
そして、急いで逃げないと燃えてしまうと思うのと同時に、絵やのドアを開けて階段を駆け下りていきました。
そこには、大家さんが火の手が家に燃え移らないように、水やり用のホースを持って、必死に水をかけていましたが、焼け石に水状態で、火の勢いは収まりません。
私は、「燃えてしまう~!」と思いながら、手にはヘルメットしか持っていないことに気が付きますが、今更、貴重品を取りに部屋に行く勇気もなく、呆気にとられて見ていることしかできませんでした。
そうこうしていると、消防車が何台も到着し、一斉に消化活動が開始され、辺りには野次馬がどんどん集まってきていました。
1時間後、火は消し止められ、幸いにも私の下宿先への延焼は免れましたので、大家さん共々、ホッと一息をついて、私は自分の部屋へと戻りました。
窓を開けて焼けた学生用アパートを見ると、割れて窓ガラスがなくなった部屋の中で、消防士の方が棒で布団をゆっくりと持ち上げたりしている様子が見えたものですから、ぞっとして窓を閉めてしまいました。
どうも逃げ遅れた人がいないか、実況検分を行っているところでした。
結局、学生用アパートは全焼でしたが、不幸中の幸いにも逃げ遅れた人はいませんでした。
でも私はヘルメットだけを持って逃げたものですから、いざというときは何もできないということを、身をもって体験するのでありました。
余談ですが、全焼の学生用アパートは取り壊され、駐車場に変わりました。
その結果、私の部屋は日当たり良好で、夜な夜な開催されていた麻雀大会もなく、優良物件に早変わりし、3年生が終わるまで、快適な学生生活を送ることになるのでした。